高齢社会ならではの問題が多発
超高齢社会を迎えた現代日本で、様々な困った出来事が多発しています。いざという時のために、老老世帯、独り暮らし世帯の高齢者が備えておきたい大切なことを考えてみたいと思います。
【事例1】自宅で意識不明
独り暮らしの高齢者が自宅で急に体調が悪くなり意識不明の重体になった時、救急隊がかけつけます。
その時、救急隊にとって最も知りたいことは、以下のことです。
①本人の身元情報
②同居者の有無
③親族の連絡先
④持病の有無
⑤服用中の薬
⑥かかりつけ医
もしも、これらの情報がすぐに分かるなら、救急隊はすぐに患者に対して適切な処置をして、すぐに医療による対処ができます。
しかし、これらの情報が分からなかった場合、病院に救急搬送された時、医師は適切な対応ができずに困惑します。
【事例2】災害時の安否
本年、政府が今後40年以内に南海トラフ大地震が発生する確率が90%になったと発表しました。
災害発生時に特に問題になるのが、独り暮らしの高齢者の安否確認です。
特に独りで避難が困難な高齢者には支援者が必要となります。
行政や消防や社会福祉協議会では本人の要請があれば、災害発生時に安否確認や必要な支援をすることができますが、逆に、本人の意志を前もって明示しない限り、本当に必要な支援を受けることはできません。
【事例3】終末医療の問題
高齢者にとって終末医療をどうするかは大きな問題です。 本人の意志が分からなくなった重篤状態で、延命措置をするのか、それとも自然死を選択するのかは、本来本人が決めるべきものです。
しかし、健康な時に、その意志を示しておかない限り、近親者はその意志が分からず、医師に「延命措置をどうしますか?」と確認された時、思い悩んだ末に、延命措置を選択する人もいれば、自然死を選択する人もいます。
子どもは親に長く生きて欲しいと思うけれど、はたして植物人間になってまで長生きすることを親は本当に望むのかを考えると、それに伴う心労や負担を考えると、なんともいえないものです。
【事例4】認知症後の対応
現在、85才以上の年代では、認知症は2人に1人の割合といわれています。
認知症の判断は医師が行いますが、認知症には下記表の3つの段階があります。
認知症で「保佐」と医師が診断して銀行がそれを知った時、本人の講座はすべて凍結されてしまいます。
それまでは可能だった家族が代理で口座の引き落としもできなくなります。
そのため本人に代わって財産管理をする「成年後見制度」ができて、軽度の認知症の時点で法的に信頼できる人に財産管理をしてもらうことができるようになりました。親の財産はちゃんと守りたいです。
【事例5】土地建物の相続
独り暮らしの高齢者が亡くなり、その家に住む人がいなくて空き家となった場合、土地と建物を相続した人には固定資産税がかかります。
放置された空き家は急速に劣化して、風水害で雨漏りや白アリ動物の棲み処となり、やがて利用価値が無くなった場合、負の財産となり、解体を余儀なくされます。
所有者の名義が2代前にさかのぼる場合、不動産の処分には50名以上の子孫に同意をとる場合もあります。
しかし、子孫は分散して海外に居住している人もいたりした場合、いよいよ不動産の処分は困難となります。
以上のように独り暮らしの高齢者にまつわる代表的な5つの事例を列挙しましたが、これらはまだ氷山の一角です。
その他に、徘徊、介護、入所、孤独死、葬儀、埋葬、遺品整理など、独居老人に関わる様々な問題が水面下に横たわっています。
根本原因は意志の不明確さ
日本の核家族化が進み、高齢社会となり、老老世帯と独居老人世帯が増えて、これらの問題が顕在化してきたのですが、これらの問題に共通する根本の原因は、本人の意志が不明確なまま認知症になったり、意識不明になったり、亡くなってしまうことです。
そして、これらの問題は、行政の特定の部署で解決できる問題ではなく、行政、警察、消防、病院、介護施設、社会福祉協議会、金融機関、税理士、司法書士、宅建業、弁護士、法務局、裁判所など、実に多義にわたる複雑な問題なため、解決が困難となっています。
しかし、私たちが現在生きている日本の現代社会で、特に日本中でも超高齢化が進む天草においては、どこよりもこれらの問題が顕著に表れて来ていて、もはや放置できない問題となっています。
横の連携で解決する仕組み
昨年7月1日、一般社団法人天草地域総合研究所(略して天草地域総研)が設立されました。
元々天草の空き家問題(現在の天草市の空き家軒数、推定一万軒)を解決するために関係者が寄り集う勉強会から生まれた社団法人ですが、空き家だけでなく様々な高齢社会の地域の問題を住民が主体となって解決する仕組みづくりをしています。
そして、関係者がお互いに連携することにより、複雑な高齢社会の問題が解決できる新たな取り組みがはじまろうとしています。
命のバトン
天草市と天草市社会福祉協議会が独居老人等の命の安全と生活の安心を守るために進めている「命のバトン」という活動があります。
これは、非常事態が起こった時、救急隊がやってきて、適切な処置をするための本人情報をあらかじめ記載している用紙を専用のプラスチックの容器に入れて冷蔵庫に保管しておくというものです。
そこには、救急医療だけではなく、災害発生時の避難支援や日常の見守りの要請など、本人の意志が明記されていて、緊急時は、警察や消防とも情報が共有できるので、即座に対応できる仕組みになっています。
わたしのノート
天草郡市医師会が作成したもので、生前中に遺族のために本人の意志を明記しておくことで、様々な問題が未然に防げる備忘録的なものです。
内容を要約すると
①わたしの歩んできた人生
②わたしが受けたい医療介護 ③わたしの財産
④わたしの葬儀・お墓
など、もしもの時に親族がこれを見ることによって、本人の意志に添って迷わず対応できる個人情報が記せます。
おうちの手帳
希望する地域の区長、民生委員と建築士が連携して、独居老人の住まいの点検をして、家の傷み具合や耐久性を所有者に分かってもらい、その上で将来家の相続や管理など本人の意志を明記してもらうための手帖です。
総研は、天草全体に広がる空き家対策を地域住民が主体となって解決するために「おうちの手帖」を道具として、空き家を利活用した移住定住の促進や店舗の構築なども相談に乗ります。
そのために総研は独自の空き家調査を地域と連携して実施し、同時に老老世帯や独居老人には、「命のバトン」と「わたしのノート」の普及啓発も行います。
このような取り組みに関心をもたれた方は、それぞれの関係機関にお問合せください。
お問合せ先
1、「命のバトン」 天草市社会福祉協議会 電話 0969-32-2552
2、「わたしのノート」天草郡市医師会PT担当 電話 090-1340-9850(倉本医師)
3、「おうちの手帖」 (一社)天草地域総合研究所 電話 0969-66-9810